子供の落書き帳 Remix

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たこつぼと視野狭窄の恐ろしさ 「サイロ・エフェクト 高度専門化社会の罠」
2016/08/19(金) 23:40:27

たこつぼと視野狭窄の恐ろしさ 「サイロ・エフェクト 高度専門化社会の罠」


ジリアン・テットの「サイロ・エフェクト 高度専門化社会の罠」を読んだ。


どんな本?


「なぜ現代の組織で働く人々はときとして、愚かとしか言いようのない集団行動をとるのか」「なぜわれわれはときとして自分に何も見えていないことに気づかないのか」という問題を論じている。


サイロとは何か


で、筆者が言うには問題の原因は「サイロ」であるという。
サイロとは何か。俺もこの本を読むまで知らなかった。
情報システム用語事典:サイロ(さいろ) - ITmedia エンタープライズによれば、元々は「家畜の飼料や穀物などの貯蔵庫ないしは弾道ミサイルの地下格納庫のことで、英語では『窓がなく周囲が見えない』という意味がある。」そこから、他部門と連絡せずに視野狭窄に陥ってしまう状態を指している。
本の帯にも登場するが、日本語だと「たこつぼ」という概念がかなり近いだろう。

職業の世界は専門化が進み、隣の部署が何をやっているのかよくわからない。他のチームとは協力しないどころか、下手な場合には敵対する。自分と似たような人々とだけ交際する。視野が狭くなり、全体を俯瞰的に見ようとしない……という罠にはまるそうだ。


ソニーのウォークマンはなぜiPodに負けたのか


この本では、「サイロ」という視点から、8つの事例を分析している。
興味深かったのはソニーのウォークマンと、アップルのiPodの話である。
物語は1999年11月のラスベガスから始まる。コンピュータ業界の見本市「コムテックス」でソニーの出井伸之が新製品を発表した場面だ。

この時、出井は2つの同じような新製品を発表した。これが失敗の表れだったと筆者は言う。

1999年にソニーが一つではなく二つのまったく異なるデジタル・ウォークマンを発表した理由は、社内が完全に分裂していたためである。巨大なソニー帝国の異なる部門が、(中略)まったく異なるデジタル音楽プレーヤーを開発したのだ。 (p.78)



検索してみると、確かにその通りの発言が残っていた。

「開発部署の違いが製品に反映された。バイオミュージッククリップは名前のとおりパソコンの担当部署が開発したもの。一方のメモリースティック ウォークマンはオーディオ担当部署の開発品」(ソニーの説明員)。
ソニー,バイオミュージッククリップをメモリースティック ウォークマンと並べて展示 - 日経テクノロジーオンライン



1994年からソニーはカンパニー制を開始した。カンパニーどうしの間には厚い壁が出来てしまい、協力も意見交換もしなくなっていった。そういう文化が染み付いていたのだ。

その一方で、アップルは会社全体でアイディアを出し、iPodを発表した。ウォークマンはiPodにすっかり駆逐されてしまった。


おまけ。ウォークマンvs.iPodの話は「ワイドレンズ」にも書いてあったので、あとで比較してみたい。色々な本が何が敗因だと分析しているのか気になる。
ワイドレンズ―イノベーションを成功に導くエコシステム戦略


サイロ破壊に立ちはだかる抵抗勢力


この章の後半では、サイロの破壊に対し、それに抵抗する勢力の話を描いている。ハワード・ストリンガーに直接インタビューしたため、とてもリアル。当時の様子が生々しく綴られている。正直、後半のほうが印象に残った。

落ち目となったソニーはハワード・ストリンガーをCEOにした。ストリンガーは就任演説で「ソニーにはサイロが多すぎる!」と訴えた。サイロを破壊しようと、ルイス・ガースナーとIBMの取り組みを参考にした。

しかし思うように行かない。指示を出してもその通りに進んでいかない。ストリンガーは日本語が一切喋れない。そのため、自分の指示したとおりに進んでいるかをつぶさに確認することができなかったのだ。

ストリンガーは苦闘を続けた。しかし指示を出しても、あとになってそれがまったく無視されていたことが発覚するという状況が幾度も繰り返された。(中略)「私が東京本社に来て、一万人規模の人員削減か何かを発表したとする。でも次に戻ってくると、なぜか社員数はまったく変わっていないんだ」 (p.102,104)



衝撃だったのは、電子書籍リーダーの話。アマゾンが最初に発売する2年以上も前に、ストリンガーは本を読むための端末を作るように命じていた。しかし、収益を他部門と分け合わなければならないため、開発側は進んでやろうとしなかった。プロジェクトは遅れに遅れ、何も起こらなかった。それで今はどの会社が覇権を握っているかは、言うまでもないだろう。


まとめ



著者は経済誌の編集長だが、その前は文化人類学者という異色の経歴を持つ。第1章では人類学者ブルデューを主人公にして、文化人類学の成り立ちを説明する。
私たちは、今まで生きてきた文化、ものの見方に慣れ切っている。色眼鏡をずっとかけていれば、本来と違う色であることが気にならなくなる。同じく、ずっとある文化に浸っていると、それが当たり前になってしまい、それ以外の考え方なんてできなくなってしまうのだ。
この本は組織論にとどまらず、文化という視点から物事を論じているのが面白かった。

それほど人気があって売れているわけじゃないけど、とても良いビジネス書だった。今年を代表する傑作だと思う。もしビジネス書大賞にノミネートされたら嬉しいなぁ。

それでは。
  1. 2016/08/19(金) 23:40:27|
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